子どもの成長への信頼

 最後に、教師にとって最も必要だと私の考える、「信頼・承認」について論じたいと思います。
 子どもたちに対する教師の「信頼・承認」こそが、「相互承認の感度」を育むための最も重大な土台である、そう私は考えています。残念ながら、子どもたちの誰もが良好な親子関係に恵まれて育つわけではありません。親を失った子どももいれば、虐待を受けた子どももいます。「心の安全基地」を、十分に得られないまま幼少期を過ごし大人になっていく子どもたちが大勢いるのです。それゆえに、教育こそが、たとえどんな親の元に生まれたにせよ、子どもたちにとっての原初的な「信頼・承認」の砦であってほしい。私はそう考えています。教師の子どもたちに対する絶大な「信頼・承認」は、そのための最も重要な条件です。不思議なことに、親や教師に信頼されたなら、子どもたちは多くの場合、その信頼を裏切りたくないと思うものなのです。その信頼に、応えたい、応えうる人間になりたいと、自らを成長させていくものなのです。子どもたち、特に幼い子どもたちにまず必要なもの、それは何をおいても、まずは「信頼・承認」の空間なのです。
 親や教師の子どもたちに対する信頼は、きわめて多くの場合、裏切られるものです。やっぱり宿題をやってこない、また嘘をつく、なかなか勉強が進まない・・・どれだけ信頼しても、教師は子どもたちから裏切られるものです。しかしそれは、正確にいうと子どもたちに裏切られたわけではありません。子どもたちに対する”自分の期待”が、裏切られたにすぎないのです。それはいわば、こちらが勝手に子どもたちに押し付けた期待です。教師が信頼すべきは、子どもたちの「成長」です。今の自分の期待が裏切られるのは、いわば当たり前のことです。子どもたちは常に成長の途上にあるのだから、親や教師の期待に、いつでも応えられるわけがないのです。だから教師は、その成長を、忍耐強く信頼し続ける必要があるのです。

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