協同的な学び

 続いて、「学びの協同化」について論じていくことにしたいと思います。先述したように、より良い学びのためには、「学びの個別化」だけでは十分ではありません。以下論じていくように、実りある学びは、個別化と協同化をセットにすることで、より十全に達成されていくものなのです。
 一口に「協同的な学び」といっても、様々なあり方があります。しかし、基本的に共通しているのは、学びを、教師による一斉授業ではなく、児童・生徒同士の「学び合い」を通して深めていくという方法です。先述したように、一斉授業は、いわゆる「落ちこぼれ・吹きこぼし」問題をどうしても抱えざるを得ない傾向があります。それに対して、「学び合い」は、全ての子どものより質の高い学びを保障する可能性が高いと言われています。
 何十人もの子どもの学びを、一人の教師が全て担い切るのはなかなか困難な話です。その上、前にも述べたように、一人ひとりの教師の授業力には差があるし、生徒との相性が合う合わないといった問題もある。つまり、教師が教室のすべての子どもたちの実りある学びを一人で保障するのは、実は容易なことではないのです。他方、質の高い「学び合い」をうまくコーディネートすることができたなら、一人ひとりの子どもたちのより実りある学びを保障する可能性が高まることが知られています。先生の授業を聞くよりも、友達から教えてもらった方が理解が深まる、という経験を、多くの人はきっとしたことがあるでしょう。一方的に教えられるよりも、「これどういうこと?」「どうやったらいいの?」と聞きながら勉強した方が、理解を深められるものなのです。他方、友達に「教える」ことを通して、より理解が深まったという経験も多くの人が持っていることでしょう。「教えられる」ようになるためには、その内容のより十全な理解が必要になるからです。
 「学び合い」はこのように、教師一人の授業力に頼りすぎるのではなく、多様な子どもたちの力を持ち寄ることで、全員の実りある学びを達成することを目指す授業のあり方なのです。ちなみに、よく「競争」が学力の向上策として取り沙汰されますが、実は教育学や心理学などの様々な調査研究において、その通念は多くの場合、かなり間違っていることが明らかにされています。むしろ、学力の向上だけでなく、たとえば芸術的創造や会社の営業といった場面においてさえ、「競争」より「協力」「協同」の方が、高い生産性を生むという調査結果が多く報告されているのです。


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